昨今、「SaaS」や「The Model」といった言葉とともに、「カスタマーサクセス」という職種が非常に注目されています。
実際に、いま転職活動をしている人で、接客や営業職、サポートの経験がある方は、「カスタマーサクセス職」の募集を見ることが多かったりしませんか?
カスタマーサクセスはいまの流行なだけで、本当に将来も安泰なの?
そのうち「いらない」って言われるんじゃないの?
と、興味は持つけど将来性がわからず、少なからず不安を持つ方も多いのではないでしょうか。
今回は「カスタマーサクセスの将来性」について、
現在進行形でカスタマーサクセスを務めている私がガチで考えをまとめてみました。
2023年、カスタマーサクセスは引き続き進化する
結論から言うと、2023年現在、米国そして日本の両国で、カスタマーサクセスは引き続き様々な会社で試行錯誤が進み、より高度な人材が活躍し、新しいナレッジと新しい技術(AIや分析ツール、マーケティングツールなど)が生まれ、向こう5年をかけて進化を続けていくでしょう。
2023年はその足がかりとなるものが生まれる予感で溢れています。カスタマーサクセスの将来性を正しく見極めるために必要な視点を8つ紹介します。
将来性を見る視点①:SaaS業界の市場規模の拡大
まずカスタマーサクセスの将来性を占う上で欠かせない「大前提」から説明します。
カスタマーサクセスは基本的にはIT・インターネット領域の中でも、特に「SaaS・サブスクリプション」のビジネスモデルを軸とした企業で求められます。
最初に、SaaSの市場規模について見ていきましょう。
日本におけるSaaS市場規模の増加
「SaaS業界レポート2021」によると、国内のSaaS市場は年平均成長率13%の成長を維持し、2025年には約1兆4,607億円と、2020年度比が約2倍に成長する見通しと報告されています。
また、日本の1社あたりの平均SaaS利用数の増加率も2018年〜2021年で130%となっていたり、クラウドサービスを1つでも利用している日本企業の割合は約70%に至っていると報告されています。
これは要するに、「企業が取り入れるサービスがどんどんSaaS型・サブスクリプション型になっている」ということを意味しています。
実際に、皆さんが働いている会社でも、コミュニケーションツールやメールツール、会計ソフト、人事管理ソフトなどいずれかでSaaS型・サブスクリプション型のサービスが1つや2つ導入されているのではないでしょうか。
世界におけるSaaS市場規模の増加
ガートナーの調査によると、2022年の世界のSaaS市場規模は約1,766億ドル。2023年には約2,080億ドルまで拡大(年17%成長)する見通しと報告されています。
参考:【Gartner】Worldwide Public Cloud Forecasts 2022
去年のガートナーの予測では、2022年は1,453億ドルの見込みだったので、実績では約310億ドルほど上回ったことになります。私個人としても、少なくとも2030年まではSaaS業界の成長は順調なペースで進んでいくと考えています。
洗練されたSaaSの会社は不況に強い
SaaSの会社が提供するサービスは、基本的には月額契約もしくは年額契約になっており、サービスを利用する側がもし「解約したい」と思えば、そのタイミングで解約が簡単にできる仕組みです。
ですので、一般的には不況になると「解約される業種」と思われがちですが、実際はその逆です。特に優れた会社のサービスは顧客の課題解決そして業務の生産性向上に深く寄与しています。
そのサービスを無理して解約して、業務オペレーションを人間の力だけで再度組み直す方がコスト高になります。そのため、不況になって、従業員の生産性がより強く意識されるようになるほど、優れたSaaSのサービスは必要不可欠になり、解約ではなく利用継続の判断になります。
将来性を見る視点②:カスタマーサクセスの求人数の増加
次に、カスタマーサクセスの将来性の根幹をなす「カスタマーサクセス人材に対する採用ニーズ」を見ていきましょう。
日本におけるカスタマーサクセス求人数の増加
日本のDODAの調査で、「”新しい時代に求められる営業職(= カスタマーサクセスとインサイドセールス)”の求人数は、3年間で約12倍に増加」という報告がありました。カスタマーサクセス単体の数値ではないですが、この2職種が3年間で12倍増えていることから、求人数の増加の勢いがかなりあるいうことが分かります。
【転職サービス「doda」】「第2回”新しい時代に求められる営業職”に関する調査」
【転職サービス「doda」】「第3回”新しい時代に求められる営業職”に関する調査」
また、もう一つ興味深い結果は、営業経験・顧客折衝経験のあるアンケート回答者の約70%が「カスタマーサクセス」について理解していないと回答していることです。「求人数は増えているのに、求職者・転職希望者はあまり理解していない」というギャップが生じているのが今の現状です。
ただ、サイト内で検索されている回数も増えてきていることから多くの人がカスタマーサクセスの仕事について興味を持ち始めているようです。
2022年1月度の「doda」サイト内で検索されたキーワードランキングで、「カスタマーサクセス」は第44位となりました。2021年1月の同ランキングでは第80位、2020年1月の同ランキングは圏外でした。ここ数年の間で、転職希望者から「カスタマーサクセス」職の注目が集まっていることが読み取れます。
DODA
アメリカにおけるカスタマーサクセス求人数の増加
毎年アメリカのLinkedInが発表している “Emerging Jobs Report”(「新たに伸びる仕事の報告書」) の2020年版で、カスタマーサクセスの仕事がトップ10のうち第6位に入りました。10の新職種のうち7つはエンジニア・デベロッパーなどの職種ですが、そこに負けずにランクインしています。
【US LinkedIn】2020 Emerging Jobs Report
LinkedIn上にあるカスタマーサクセス求人数が、2018年と比べて34%増加したと報告されています。
これまで急激に伸びてきたため、引き続き急激に伸びるかというと一旦は増加ペースが弱くなる可能性もあります。しかし、カスタマーサクセスという職種の募集枠が急激に下がるということもないと思います。
なぜなら、SaaSやサブスクリプション型のビジネスが成長すればするほど、カスタマーサクセスの人材が必要になるからです。IT関係で、身の回りのものを見渡してみても、企業が導入するツールを見ても、いまやSaaS・サブスクリプション型のサービスがほとんどではないでしょうか。
将来性を見る視点③:カスタマーサクセスがプロフィットセンターに
カスタマーサクセスの役割は年を追うごとに広がってきています。最初は顧客基盤の維持(解約率の低下)が求められていましたが、昨今は、顧客基盤を維持しながら既存顧客からの売上を高めていく役割を期待されるようになっています。
ですので、これからカスタマーサクセスに関わる人には、顧客の問題解決だけでなく、顧客へ新しい商品や機能を提案する姿勢・能力が求められるようになります。また、これからカスタマーサクセスになりたいと考えている人は、顧客に提案できる力をPRしていくことが大切になりそうです。
そして、多くの会社でカスタマーサクセスが会社の売上を作り出すプロフィットセンターになっていくでしょうし、カスタマーサクセスから会社の売上を作ることができている会社は優良企業へと成長していくでしょう。
将来性を見る視点④:カスタマーサクセス経験者の優遇
先ほどSaaS業界の市場規模の拡大を見た通り、向こう5年は市場が広がるため、市場全体で見てもカスタマーサクセス職の採用は継続的に必要になります。
しかし、カスタマーサクセスの経験者というのは言うほど多くありません。確かに2018年と今を比べると、格段にカスタマーサクセス経験者は増えていますが、それでもまだまだ人手は足りていません。
カスタマーサクセスの方法論が年を経るごとに進化し、洗練されてきているため、当然企業側の採用ニーズもどちらかというと「経験者が欲しい」になりやすいです。カスタマーサクセスの経験を今のうちに積んでおくと、引き続き、カスタマーサクセス職としての転職はかなりやりやすいです。
将来性を見る視点⑤:新しいテクノロジーの台頭・導入
私も日々カスタマーサクセスの仕事をしていて思うのは、カスタマーサクセス領域で利用できるツールがかなり増えてきているということです。例えば、自動でお客さんと会話してくれるチャットボットシステムや顧客データを解析して特定の状態の顧客に画面上で情報をポップアップで表示してくれるサービスなどです。
そしてこの2023年以降、最も台頭するのがAIでしょう。実際、私もAIを業務に導入し始めていて、その効果に驚いています。これら新しいテクノロジー・ツールを用いることで、カスタマーサクセスはさらに1段も2段も進化し、より効率的なものになっていくでしょう。
将来性を見る視点⑥:カスタマーサクセスが他領域に展開する
ここに関しては、私個人的な所感が強い部分ですが、「カスタマーサクセス」はこれからSaaSという領域を超えて、ITやテクノロジーとともにさまざまな業界・業種に浸透していくと考えています。
現在、カスタマーサクセスを募集する企業のほとんどはIT系企業でSaaS型のソフトウェアを提供している会社です。しかし、ここから、例えば、メーカー企業、D2C×EC企業、雑誌・メディア運営企業、スモールビジネス・個人事業主などにも「カスタマーサクセス」の考え方が伝播していくだろうと予想しています。
カスタマーサクセスは、既存の顧客から長期的な利益を得られるようにする方法論です。そこから、SaaS領域を発端に、ビジネスの根幹を支える1つの概念(考え方)として抽象化されて他の分野へと展開されるようになるでしょう。
カスタマーサクセスと親和性の良い領域
- メーカー企業
ただの物売りではなく、体験やサービスを物と一緒に売ることが求められる - メディア/雑誌運営の企業
ただの情報提供ではなく、読者のライフスタイルを理想に近づける工夫が求められる - D2C/EC運営企業
コアなファンの基盤を作り拡大させていくことが重要になる - エンターテイメント
ファンやユーザーに対して特定のスポット(施設内など)だけでなく、様々な方法で体験と情報を届けていくことが求められる - スモールビジネス/個人事業主
顧客と距離が近い関係性を活かし、感覚でやってきたことをデータ化・仕組み化していくことが求められる
これらの領域には、今後カスタマーサクセスの考え方が広がっていくと私は考えています。SaaSで確立されたカスタマーサクセス手法が全てそのまま用いられるわけではないですが、その会社が提供するサービス全体の「設計」にカスタマーサクセスの考え方が取り入れられていくでしょう。
これらの領域の企業(もしくは事業主)が、カスタマーサクセスを取りいれていく際に外部から「カスタマーサクセス」の経験のある人材を見つけることが必要になります。このような状況になると、カスタマーサクセス経験者のニーズはより一層高まっていく予想されます。
将来性を見る視点⑦:安泰=カスタマーサクセススキルの向上
ここまでカスタマーサクセスの将来性や可能性について見てきました。そもそもの市場・市況・進歩がどのようになっているかイメージを掴んでいただけたでしょうか。
カスタマーサクセスという分野自体、まずは向こう10年ほどは発展していくと考えていますが、「カスタマーサクセスになればそれで安泰」となるかというと、それはまた別の話になってくると思います。
いまの時代、絶対に安泰というものは何もない
まず大前提ですが、この変化が激しい世の中で「絶対に安泰」というものはありません。
終身雇用もなくなり、それでいて就労年齢は70~80歳ほどまで上がっていくでしょう。転職は当たり前になり、リスキリングやリカレント教育も当たり前になる。そして、グローバル化による社会変化、経済格差の広がり、自然環境の変化・災害など、あらゆる面で変化し続けることになるでしょう。
そんな世の中で安泰というものはまずないです。カスタマーサクセスに限らず、営業でも、経理でも、コンサルでも、カスタマーサポートでもどんな職種でも「これだから安泰」というものはありません。
仮にカスタマーサクセスが向こう10年は発展していくとしても、大事になるのは、常に自分自身が変化に対応できるかどうかということだけです。
カスタマーサクセスのスキルを高めていくことが大切
その前提の上で、それでもより安泰に、不要とされないためには、シンプルですがカスタマーサクセスとしてのスキルや経験を常に高めていくことがとても大切になります。
そして、スキルや経験を高めていくという意味でいうと、カスタマーサクセスはスキルや経験を積みやすい職種と言うことができます。具体的には次のような特徴があります。
- 急激な募集増加により、マネージャーなどの管理職が不足しているため昇進を狙える。
- さまざまな業界でカスタマーサクセスの求人が出てくるため転職可能な範囲が幅広い。
- カスタマーサクセス内で多様な職種が生まれているためスキルを広げたり深めたりしやすい。
少しデメリットな部分でいうと、
- 日本ではまだまだ発展段階でもあり、何が正解なのかがはっきり見えにくい。
ということが挙げられます。とはいえ、近年は日本でもカスタマーサクセスのイベントやコミュニティが活発になっており、カスタマーサクセスを実践する企業同士のナレッジシェアの増えています。
カスタマーサクセスの将来性がわかったら、次はカスタマーサクセスの平均年収を見てみましょう。
まとめ
以上、カスタマーサクセスの将来性に関する私なりの考えでした。
簡単にまとめると、
- 「カスタマーサクセス」という市場は今後も活発に発展していく=フィールドの魅力は強い。
- とはいえ、安泰になるには、専門的なスキルを伸ばし続けていく努力が必要。
ということになります。