アダプションとは、カスタマーサクセスにおける業務の1つです。またその業務を担うチームを「アダプションチーム」と呼びます。
アダプションとは、一言でいうと「活用を促進させる」担当になります。顧客に契約時よりもさらにサービスやプロダクトを理解してもらい、当初やりたかったことを実現できるように活用を支援するのがアダプションの役割です。
アダプションという明確なチームがあるか、オンボーディングや他の役割に統合されているかは企業によって異なります。
今回の記事では、そんなアダプションとは何かについて分かりやすく解説します。
アダプションとは、顧客がサービス・プロダクトの価値を信じて、理想の実現に向けて活用を深めていくこと
アダプションという言葉は、「(考えや方針を)取り入れる、採用する」という英語”Adopt”が語源になっています。
アダプションは、オンボーディングチームがオンボードを完了させた顧客を引き継いでいきます。(※企業によっては、オンボーディング担当がアダプションも担うなど明確に分かれてない場合もあります。)
オンボーディング後も、顧客がサービスやプロダクトをさらに深く広く活用できるように、新たな機能の活用を提案したり、活用を促進してもらえるような情報発信やコミュニケーションを取ったりすることがアダプションの役目になります。
オンボーディングは「使い始める」ということがゴールでしたが、アダプションになると顧客ごとによって次のゴールが変わります。進んでいく経路の多様性が出てくるため、いかに効果的に顧客ニーズを把握し、優先度をつけて、顧客ごとの理想を実現できるかが重要な点になります。
アダプションの仕事をまとめると…
- オンボーディングを完了した顧客が次にどんなことをやっていきたいか・どんなことをやっていくべきかを把握すること。
- どのようなニーズを持っているか第一線で情報を集めて、CSチームやプロダクトチームにフィードバックしていくこと。
- 機能利用データや定性的な情報を見ながら、優先度をつけながら顧客管理を行うこと。
- 直接的な電話やオンライン会議、間接的なメールなどのコミュニケーションを使い分けて、顧客に負荷がかからないように関係性を築くこと。
- 新しい機能のメリットを顧客に認識してもらい、機能活用に取り組んでもらうこと。
立ち上げ段階では、アダプションチームは「探索チーム」に近いです。オンボーディング後の顧客がどのような状況なのか、どんなことを考えているのか、どれくらいのセグメントパターンがあるのかなどを直接コミュニケーションをとって確かめにいくということをしたりします。
そこから徐々に状況が掴めてきたら、CSチーム内やプロダクトチームと連携して、改善できることがないか、提供した方が良い情報がないか、アップセルやクロスセルの仕組みを作れないかなどを施策を考えて動かしていきます。全てをアダプションチームだけでやると、おそらくほとんどの確率でリソース不足になるからです。それくらいこのフェーズでは、顧客対応が多様化する可能性があります。
アダプションの体制は企業によって違う
アダプションの体制は、企業によって異なります。(1)顧客を1人のカスタマーサクセスマネージャーがガッツリ担当する企業では、1人の担当がオンボーディングも、オンボーディング後のアダプションも担うことが多いです。
一方で、(2)カスタマーサクセスチーム全体で顧客全体を見ていくスタイルの企業では、オンボーディングとアダプションの役割・チームが分けられていて、オンボーディング後の顧客をアダプションチームが引継いでいくパターンが多いです。
アダプションの優先度は高くなくて良いとも言われる
ちなみに、カスタマーサクセスの役割が分かれている組織だとしても「アダプション」のチームがあることはまだまだ少ないです。その背景は、カスタマーサクセスの重要度ではまず第一に「オンボーディング」が大事で、その次に「再契約=リニューアルを獲得すること」が大事になります。
ある意味、この2つさえ安定していれば「カスタマーサクセス」の土台が整ったとも言うことができます。ですので、企業としてはアダプションをいきなり作るより、オンボーディングとリニューアルに注力していく傾向があります。もしアダプションのチームがある場合は、ある程度カスタマーサクセスの土台が整っている会社・状況だと考えて良いでしょう。
私個人としては、「オンボーディングだけだとちょっと単調だな(それなりに型も作れたしな)」という方が、社内でアダプションチームを作っていくという流れが良いのではないかと考えています。
アダプションに向いている人
- 顧客の成功や変化を喜ぶことができる人。
- 明確な着地点がまだ見えていなくてもニーズを探るコミュニケーションができる人。
- 相手の深いニーズを探り、適切な方向へ導くことができる人。
- 困っている人やつまずいている人を助けることができる人。
- 数十から100ほどの顧客を抱えながらも、適切な優先順位をつけることができる人。
顧客のニーズをしっかりと引き出せること、そしてそのニーズに対して直接対応しようとするのではなく、一度チームにフィードバックして、仕組みで解決する方法を考えることができる人が向いていると思います。「木を見ながら、森を見ることができる」総合力が問われるポジションです。
アダプションに向いてない人
- 相手の状況を理解するのが苦手な人。
- 根本的な課題ではなく、表面的な問題に意識を取られてしまう人。
- 明確な着地点やゴールがないとどこに進めば良いのか不安になる人。
- 同じ相手と中長期で関係性を築いていくことが好きでない人。
- 決まったルーティンやオペレーションでないと動くことができない人。
- 課題があったときにすぐに自分だけで解決しようとしてしまう人。
「何を・どこをゴールとすべきか」を、状況にあわせて常に考えられる人ではない場合、アダプションは少し大変かもしれません。アダプションのゴール、そしてそのゴールへの至り方ははっきりと見えないことが多いです。あいまいな環境でも自分で「発見」し続けられるメンタリティーがある人が好ましいです。
アダプションの仕事をするとどんなメリットがあるか
オンボーディングと比べると、アダプションの段階では、顧客のサービス利用・プロダクト利用の方向性が多様になっていきます。おそらく最初は属人的な対応になりますが、もしアダプションを仕組み化していくことができたら大きな功績になるでしょう。
また、アダプションでは、その多様化するニーズに対応するにあたり自分1人で解決するというのはかなり難しいです。そのため、カスタマーサクセスオペレーション(CS Ops)やカスタマーマーケティングあるいはプロダクトチームといった他のチームと連携していくことが大切です。
アダプション担当が上手に顧客ニーズや課題を集められると、その示唆がCS全体にも共有され、新しい施策を生み出す原動力になったりもします。顧客と向き合う最前線に立ちながら、そこで得た情報をCS全体にフィードバックし、CS全体で必要なサービスを構築していくダイナミズムを感じることもできるでしょう。
カスタマーサクセス アダプションの求人例
アダプションの求人を探してみましたが、まだ日本には「アダプション」だけの求人はあまりないようです。
例えば、上記の企業では、求人に、オンボーディングからアダプションからアップセルからカスタマーマーケティングまで全て網羅して書かれています。
当たり前ですが、これら全てをいきなりやることは無理です。このような企業があった場合には、その企業がどこを優先度高くやりたいのか(自分自身はどのパートを担うことができるか)をしっかりと明確にすることが大切です。
アダプションの求人を探す中で、パイオニア株式会社の求人を見つけました。このような大企業がカスタマーサクセスポジションを募集しているのは大変興味深いです。大企業だからこそ出せる規模感・社会的インパクトがあり、カスタマーサクセスはそこに直接関わっていくことができます。こういう仕事はやりがいがありそうですね。
アダプションへのキャリアパス
アダプション担当になるためのキャリアパス・ルートはいくつかあります。
まず1つは、その企業の中でカスタマーサクセスマネージャー(CSM)になり、その後アダプションへ異動する(もしくは立ち上げる)という流れです。例えば、最初はオンボーディングを担当し、一通り理解したら、自らアダプションチームを立ち上げていくようなイメージです。
そして、もう1つの方法は、営業系の経験がある上で、ダイレクトにアダプションになるというキャリアパスです。この経路で行く場合、スキル用件は比較的合いやすいですが、一方で注意が必要なのが、「カスタマーサクセス」と「顧客」の理解も必要ということです。
カスタマーサクセスマネージャーを通さないキャリアパスの場合には、必ず転職希望先の企業の顧客やカスタマーサクセスについて理解を深めておきましょう。